2010年4月6日火曜日

修士論文の書き方


修士論文の書き方(改訂版2018.12.30)
  
修士論文とは
修士論文は学術論文の一つであり、これから修士論文を執筆しようとする院生諸君は、論文形式の基本的な原則をよく理解しておかなければならない。近年、学術論文をめぐるいくつかの不祥事があり、論文審査は厳しくなっているので注意が必要である。

大学院は、どこの大学院でも院生が完成度の高い修士論文を作成するために修士論文の書き方と,書式の統一について取り決めている.書式はコースごとに最もふさわしい体裁となるように検討されたためコースによって異なるので,各自のコースが指定した書式に基づいて論文を作成しなければならない.また論文作成の詳細についてはそれぞれの指導教員の指示に従うことが重用である.

修士論文が目指す,全てのコースに共通していることは,過去の研究に対して,いかに新規性(新しいく,独創性)があるか,あるいはより有効性があるかを示すもので,新規性や有効性,有用性のないものは論文とは呼べない.こうした基本理念に沿った修士論文を目指して作成しなければならない.

会計システムコースの場合,ほとんどの院生が税理士試験の一部免除希望者なので修了後,修士論文を付して国税審議会に試験免除申請をするため,相応の書式になっているので注意すること.

 

各コースの書式(事例)

経営管理コース     40字×20行×50 約4万字   図表ページに含める  明朝10.5 
会計システムコース   40字×35行×36 約5万字   図表含めない      明朝10
 
・ フォント 明朝体 英文はTimes New Roman 
・ 印刷する紙はA4サイズ
・ ヨコ文字数×行数×枚数はコースの指定に合わせる
・ 数字は半角

    コースによって文字数も,作成要領も大きく異なる理由は、それぞれの学問分野の特徴が異なるからで、人文・社会科学は、言葉や文章で自分の主張したいことや事柄の説明をしなければならないので文字数は多くなる。自然科学系は、実験や観察の結果をデータを使って,説明するので文字数はそれほど多くならない.
      各研究科によって書式の詳細が決まっているので,しっかり把握してから書き始める.

論文作成までの過程

(1)指導教員の決定
   専攻するコースと分野によって指導教員が決められるので,指導教員が担当する演習は,2年間必ず受講すること.院生は指導教員と相談しながら修士論文を作成する.

(2)論文テーマの適切性
   修士論文は,学術的で社会に対して貢献度が高いものでなければならない.なぜ、そのテーマを選んだのか,目的・理由をはっきり示す必要がある.

(何を書きたいのか)
・ 自分が興味を持っていることは何か
・ 何を主張したいのか
・ 学術的に適切な課題であるのか

(研究対象と方法論)
    ・何をどのように研究するのか
    ・帰納法、演繹法など方法論に注意すること
  
(3)先行研究の理解
    どのようなテーマの論文でも,すでにそれに関わる研究が行われていて,その成果もあげられている.自分が決めた研究テーマに関係する論文や資料を収集し,これまでにどのような研究がなされ,どのような議論がなされてきたのか、それらの先行研究は誰がどのような立場で研究を行ってきたのか知る必要がある.そのうえで自分の意見に近い研究と,対立する意見も取り上げ,自分の意見の正当性を主張する必要がある.

資料を集める
・ 先行研究の把握
・ 自分の主張と同じ立場の資料
・ 自分の主張と異なる資料
 
(4)資料・データの収集

修士論文で主張する意見は,独善的で根拠のないものであってはいけない.自分の意見は資料やデータに基づき,その正当性を証明するものでなければならないし,その意味で資料やデータの収集は重要である。いまだに世間に知られていない新しい資料、データを発掘することが出来れば,それも大きな成果である.

・ データは責任ある機関が公表しているものを使う 
・ 文献収集に大学の図書館を使う
・ 所蔵する雑誌を調べ文献に目を通す
・ 必要と思われる資料はコピーを取る
・ 国会図書館NDL-OPACのキーワード検索
・ 図書館のレファレンス機能を使う
・ パソコンでネット検索
・ 必要な資料・文献を取り寄せる 
 
(5)論文を書く
    最初に論文の目次をつくる (近年、章立てではなく番号だけのものが増えている)

序章   (なぜこの論文を書こうと思ったのか)

1    (各章の表題については太字 フォントは12 )
  第1節
  第2節
  第3節
  第4

2
            第1節
            第2節
      第3節
      第4節

3
         以下同じ4~5章程度でまとめる
 
考察)自然科学分野では重要だが社会科学では必要ない 指導教員の指示による
 
 結論 論文で最も大事な部分(何が分かったのか,どのような結果になったのか.)

 謝辞 指導教員や両親などへのお礼の言葉

(引用文献) 指導教員との意見の相違が起こりやすいので注意すること
(参考文献) しっかりとした脚注があれば参考文献は必要ない  

推敲

・ 結論に無理はないか 
・ 研究の手法と仮説は適切か
・ 論理の構成は妥当であるか
・ 文章にねじれはないか
 推敲に時間をかけられるように完成までの時間配分に注意 

(脚注)の書き方

脚注をページ下に入れるのか、章の終わりに入れるのか予め決めておくこと  

・近年,論文の書き方は簡略化されつつある.
 しかし修士論文の場合論文の書き方の基本に忠実に書くことが大切である

・文献などから引用する場合は必ず脚注をつける

・引用する論文,著書によって修士論文の品格が左右されるので注意する.  
 

・本文を補足説明する場合にも(脚注)に記入する
 
・英論文でも書き方は基本的に同じである

MicrosoftWordには(脚注)を記入するための機能が付いているので利用する  

(注)の基本的な決まり(記入する順番が決まっている)

著者名『本の題名』出版年月日,出版社名,○ページ. (句読点を忘れないように)

引用するものが本ならば『 』
引用するものが論文・雑誌ならば「 」
引用するものが本ならば「書」
引用するものが論文・雑誌ならば「稿」
Webからの引用
ページを提供している主体とページのタイトルを記し,その後にURLを記載し,閲覧した日付を書いておくこと.時間が経つと同じページでも内容が更新されている場合もある. 

脚注(事例)

1 谷崎敏昭著 『企業と戦略』1990年,○○出版,60ページ.

2 同上書,62ページ.

3 谷崎敏昭稿「情報化と経営」1999年,上武大学経営情報学部紀要12号,50ページ.

4 同上稿,51ページ.

5 前掲書『企業と戦略』63ページ.
 
近年、「同上」「前掲」と書いている論文が多くなっている。簡略化は海外論文の影響と思われるが、ここでは基本に忠実に書くことが望ましい。それでも指導教授によって見解が異なるので事前に確認しておくことが望ましい。

 禁止事項
・ Web上の論文をコピーする
・ 無断で文献を書きうつす (必ず脚注をつける)
・ 代筆
・ 孫引き (引用している資料をさらに引用する。必ず原典を見ること)
・ 翻訳ソフトで外国論文を丸写し 
 提出遅れ (提出期日、時間に遅れると受け取らない)

(6)文章作成能力

文章は主語、述語をはっきりとさせて,分かりやすい文型であると同時に,格調の高い文語体で記述すること。長文の場合,文章のねじれが生じやすいので注意し,普段から手本となるような文章を探して良い文章を書く訓練をしておくこと.
 
(7)オリジナリティ

論文は先行研究を理解した上で,分独自のオリジナリティを持つことが必要である。そのオリジナリティは独善的意見や特異なものではなく,バランスのとれた考えであることが重要である.更にそれは資料によって裏付けられなければならない.
 
(8)書式と体裁

 研究コ-スごとにまとめられた「論文の書き方」を参照に修士論文としての体裁を整え,品格にこだわって書かなければならない.そのために使用する語句は類語辞典などを利用して最もふさわしい語句を選ぶこと.脚注の書き方など良く理解し、フォントや文字のサイズ、太文字など予め決めておくこと.完成論文の製本については,指導教授と相談のうえ,専門の業者にお願いすること.
 
(9)発表会
(事例)
論文の発表会は10月に行われる中間発表会と,2月の上旬の最終発表会の二回行われる.それぞれ発表会は一人10分間の発表と,5分間の質疑応答が行われるので、発表当日に利用するA4用紙2~3枚程度にまとめた論文要旨と,PowerPointで作成したデータを,定められた期日までに提出しなければならない.大事な発表会なので,1・2年生はスーツを着用の上,全員参加すること.
研究科によって発表形式は異なるので事前に確認すること。

発表で大切なことは,要点を整理し,根拠となるデータを示し,はっきりとした声で時間内に収めて話をすることである.PowerPointの作り方は文字は少なく,情報量は多くである.PowerPointは文字を書くためのツールではなく,グラフやデータ,写真などを上手に利用して自分の主張を分かり易く解説するためのものである.発表会場の後方からでも,はっきりと見えるように事前に確認しておくこと.アニメーションの多用や、遠くから見えにくい色などは避けた方がよい.
 
10)論文審査

論文審査は,主査・副査・指導教員の3人一組で行われ,合否認定は教員会議の審議のあと学長により決済が行われる.論文の提出者は,事前に主査・副査の教員に,論文の趣旨を知らせ,指導を受ける必要がある.

3 修士論文審査基準 
近年,論文の審査基準は公表されるようになったので確認し合格できるように論文作成すること.

修士論文の審査は,定められた期間内に授業科目を履修し,中間発表と最終報告会を済ませ,指導教授の指示に基づき,論文作成者が主体的に作成し提出した論文を,主査1名、副査2名で行う.提出された論文は国際的な研究規範や法律を順守しているか、捏造、盗用などは無いか、個人情報は保護されているか,などについて検討後,以下の修士論文審査基準に基づいて審査する.
 
(事例)
(1)研究テーマ設定にあたり,何が問題で何を明らかにしたいのかという問題意識が明確で,論文    の意義や執筆の必要性が認められること.
(2)研究テーマについての先行研究が十分に検討され,関連する研究を整理し,それを理解したうえで研究方針を決定すること。
(3)学術論文として体裁を整え、問題提起から結論までの流れに無理がなく科学的かつ合理的な章立てになっていること.
(4) 研究テーマについての問題点を明確にし,検討すべき課題が的確に解明されていること.
(5)検討されてきた事柄が従来の研究にはみられない新しい視点や提案さらに独創性があること.
(6)研究テーマの解明に必要な資料やデータは適切に利用され,データの内容が結論を導き出すのに有効に利用されていること。
(7)引用した文献は学術論文として適切であり、注表記は正確に記入されていること.
(8)研究テーマに関する専門知識が習得されていて高度な知識に基づく研究が行われていること.
(9)正しい結論を導き出すための研究方法が取られていること.
10)研究テーマを解明するための論理展開に一貫性があり,矛盾がないこと.
11)研究に際し、研究倫理が遵守されプライバシーやハラスメントについて考慮されていること. 
  (12)「人を対象とする」論文は事前に倫理審査会の許可を得ていること.倫理審査の日時に注意.

4 倫理審査の申請

 近年,プライバシーやハラスメントに関する事柄が厳しく見られるようになってきた.従来,社会科学ではあまり考慮されてこなかった事柄ではあるが,倫理的に適正な研究を維持し,人間の尊厳および人権を守るために「人を対象とする」研究を行う場合は、必ず倫理審査を受けること.倫理審査を申請する場合は,指導教授の指導のもと倫理審査申請書に研究計画書と必要な書類を添えて,倫理審査会へ申し込むこと.(倫理審査は年間に1度しか行わないので審査日時に遅れないように申請すること)

5 特定課題研究論文の審査基準

特定課題研究の審査は修士論文と同様に,定められた期間内に授業科目を履修し,中間発表と最終報告会を済ませ,指導教授の指示に基づき,論文作成者が主体的に作成し提出した論文を,主査1名,副査2名で行う.提出された論文は国際的な研究規範や法律を順守しているか,捏造,盗用などは無いか,個人情報は保護されているか,などについて検討後,特定課題研究論文審査基準に基づいて審査する.