2019年11月4日月曜日

人的資源管理(HRM)

人的資源管理とは労働者である人間を、組織の目標に合わせてマネジメントすることである。かつて労務管理はブルーカラー労働者、ホワイトカラーは人事管理と言っていたが、労働構造の構造変化に伴い変化し、現在はhuman resource management(HRM人的資源管理)というようになった。労働者の管理を働く人間の視点で管理するのは日本的経営の神髄で最も得意とする分野である。実は日本的経営が欧米に伝えられ、それが改良されて戻ってきたのがHRMなのである。


人間としての労働者
私はヒト・カネ・モノという表現に抵抗がある。人をカネやモノと一緒にした経営など尊敬できないからである。あらゆる管理において人間は特別な存在で、意思を持った労働者が企業の目標に合わせて、その能力を最大限発揮することを求められる。しかし人間は、自身が納得しないとその能力を十分に発揮しない存在でもある。企業はどのようにしたら、労働者の能力を十分に利用できるのか考えることが、人的資源管理のめざすべき方向である。そこでQWL(quality of working Life)つまり労働生活の質が見直され、人間らしい働き方について模索されるようになった。

現在、グローバル企業や株主優先とする経営を行っている企業において、労働者をコストと見立て、出来るだけコスト削減を図る経営者が見受けられるが、彼らの目指している方向は明らかに誤っている。何のための経営なのか、社会のためではなく株主のために機能し、人々を幸福にすることが出来ない企業など存在する価値すらない。経営者が企業の経営理念や経営哲学に沿って、資源としての労働者をどのように理解し、どのように扱うのか問われている。人的資源管理には、こうした視点が欠落していては意味がないし、多くの人々が注目している。

人的資源管理の要素
 HRMの要素には、採用・能力・動機づけ・教育・評価・成果・報酬などがある。しかし、これは会社側からのアプローチで、労働者は同じ仕事に対して自らマネジメントする能力を兼ね備えている。そのために必要な要素は、社会参加意識・やりがい・向上心・社会的地位・信頼・充実感・生活設計などである。企業はこうした個人の仕事に対する取り組み方についても考慮し、AI時代のマネジメントについて新しい方向性を打ち出すことが求められている。。

人的資源管理の事例
 マイクロソフト社の場合、採用する人材は特に優れた人材のみを対象とし、その候補者の中から厳選してスカウトする。条件は誰でも入社したいと考えるだけ十分に魅力的であるが実際採用されるのは数%と言われている。入社後は激しい競争が行われ、優秀であれば若くして重要な地位につく。(三輪卓巳稿「IT技術者の人的資源管理の事例分析」

 トヨタの場合、効率的で大規模に行われている品質管理運動であるトヨタシステムの中の一部としてHRMが行われてきた。トヨタの成功は現場で働く労働者が、テイアン・カイゼンといった自主的な活動によって支えられてきた。現在でもQC活動を通じて、熱心に生産性向上のために新しいトヨタシステムの改善を行っている。

人的資源管理の課題
 近年、QC活動を廃止する企業や職場が増えてきた。無意味な提案や改善によって時間の無駄と言われ、次第に活動は停滞していった。職場環境が変わり、短期間の非正規雇用者が増え、給与も時間給が増加し、労働時間に含まれないQC活動など参加したくないのは当然である。今後、日本のHRMを育てるためには今までとは異なった方法が必要になっている。

日本的経営については、封建遺制として否定的な見解も見られた反面、高度成長期には積極的に支持する意見も多くみられ、日本的特質として最近まで残存してきた。問題は受け皿もないまま経営の根幹である長期雇用や労働者大切にしてきた制度を破壊し、多くの労働者の犠牲と社会的な不安をもたらしたことである。1990年から2000年までの自殺者数は毎年3万人を超え1、特に働き盛の中高年の自殺者が激増した。本来なら、労働組合が労働者の権利や働き口を守るべき存在なのに、日本的な企業別労働組合は、会社組織と癒着し、労働者を守る組織にはなりえなかった。

終身雇用と年功制については中小企業などでは、すでに以前から崩壊していたが、グローバル企業においても永年維持されてきた終身雇用制度が維持できなくなり2000年に正規雇用者3630万人、非正規雇用1273万人だったものが、2018年正規雇用者数3476万人、非正規雇用者2120万人と非正規雇用者数は激増した。2 グローバル資本は、いつでも解雇できるシステム を導入し、終身雇用者も限定正社員に組み換え、労働者の不安が増すことになった。アメリカ的でグローバルな雇用制度を、日本の企業に都合の良い部分だけを受け入れた結果、全体の一貫性が無くなり不安定な形態になってしまった。 「働き方改革」はこうした日本的経営の破壊を正当化するために登場したもので、当初から労働者のためになるようなものではなかった。求められるのは、労働者や環境を大切にする新しい日本の経営制度を構築することである。

1 厚生労働省「自殺者数の年次推移」平成30年、2ページ。

2 厚生労働省「労働経済の推移と特徴」2018年、26ページ。

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