2019年12月16日月曜日

エネルギー・環境と企業の社会的責任

 1エネルギーと環境問題
① エネルギー産業は利権の塊
3月11日の震災直後に起こった東京電力の福島第一原子力発電所の事故直後、多くの日
本人は原子力発電所はいらないと判断し、現在でも国民の半数以上の人々は原発再稼働に
反対している。ところが原子力関連企業は、あらゆる手を使って、原子力産業が日本にと
って必要であると明言し、マスコミ、出版、研究者、広告、政治家を総動員して、あれほ
どの事故でも安全であり日本に原発は必要だと言い続けている。資源エネルギー庁は平成
30年「原子力に関する国民理解のための広聴・広報事業」に4.3億円「広報・調査等交付
金」は8.3億円を使って原子力発電の必要性を訴えている。 1  関西電力の経営者による7
年間で3億2千万円にもなる金品の受領問題は、原子力発電に関わる年間数兆円ともいわ
れる利権全体のごく一部が発覚したに過ぎない。
なぜこれほどまでに原子力産業に固執するのかといえば、国策であり、やはりエネルギ
ー産業は利権の塊で、エネルギーは儲かる、特に原子力発電は日米産軍複合体(東芝WH,
日立GEなど)による強固な世界戦略の一端を担う、儲かる産業なのである。石油利権が欧
米の手から産油国側に渡った現在、アメリカにとって原子力利権は手放すことができない
重要なものである。原子力発電の原子炉技術は、日米が最高峰の位置にあり、これから開
発途上国に売り込むためにも、国防上の理由からも原子力が安全であると訴え続けなけれ
ばならない。資本にとって脱原発などの選択は容易ではなく、一方の儲からないエネルギ
ーとしての再生可能エネルギーは、資本から疎んじられ、世界の潮流は再生可能エネルギ
ーの利用であるのに、たいへん皮肉なことに原子力による大きな被害を経験し、国民が拒
絶している原子力産業からの脱却が最も困難なのが日本なのである。原発事故の責任の所
在について議論はしても結局だれも責任を取らず、不可抗力の天災ということでかたづけ
てしまおうとするやり方は、日本の社会システムが過去から何も学ばず、何も変わってい
ないことを示している。 2

 株式会社制度下での環境問題
株式会社制度の最大の欠陥が、儲からない仕事はできないことである。それが分かって
いるから、一生懸命に社会貢献をPRし、多くの企業のwebサイトには必ずといってよいほ
ど社会貢献欄があって、いかにも社会の役に立っているように見せているが、企業による
環境問題の取り組みは不十分で、温暖化防止対策に対する意識も高まりを見せていない
。 3  それでも中には環境NPO組織と協働することで、社会貢献に取り組む企業がある。社
会貢献上手だが金集めが下手なNPOと、社会貢献下手だが金儲け上手な組織が手を組むこ
とで成果を上げ高い評価を上げている組織の取り組みは期待したい。出来ることならば環
境問題は制度化して、企業の義務として行わなければならない事案で、いずれにせよ企業
の善意に頼る環境問題の解決を待っている時間はない。
1 平成30年3月20日経済産業省、資源エネルギー庁 対話後方の取り組み。
2 福島第一原子力発電所事故で、業務上過失致死傷罪により起訴された東京電力の旧経営陣3人は東京地方裁判所から無罪判決を言い渡された。
3 環境省「環境にやさしい企業調査」平成29年度。
                                      

 株主資本主義の誤り
 「企業はだれのものか」という議論では、株主優先で結論が出た、というより押し切ら
れてしまった。従業員優先の日本的経営は時代遅れのローカルな考え方、として片づけら
れ、その結果、終身雇用は崩壊し、非正規雇用が増え、会社の利益を労働者には分配せず
、それより株価を上げるため、株主への配当金を多くすることで、世界の投資家を呼び込
み、無節操な経済活動を仕掛け、日本においても格差社会が誕生していった。
 ヘンリー・フォードが自動車会社を創業した時、多くのスポンサーが資金を提供して会
社が設立された。確かに、この時この会社は株主のものと言ってよいだろう。明治初期、
三菱における株式会社設立は、岩崎弥太郎個人による出資で、いわば株式会社制度を組織
支配の目的に利用した、どちらかというと日本の場合、株式会社制度がゆがめられた形で
スタートした。圧倒的多数を占める日本の中小零細企業は、大企業と異なり経営者自身に
よる出資で会社が設立される場合が多く、資本と経営は分離されていない。長期雇用で会
社と信頼関係を維持し、会社を守ってきたのは株主ではなく従業員だった。
株主資本主義的な考え方は、実は株主を盾にした経営者支配の一つの側面で、経営の責
任を実態のはっきりしない株主に押しつけているのではないだろうか。海外の投資家を呼
び込むため、グローバル化政策で株主資本主義をとり、企業が投機の対象とされる不健全
な株式会社制度が一般化することは、従来の日本的な経営の考え方の対極に位置するもの
で、非正規雇用の低賃金では生計も立てられず、忠誠心も仲間意識も消え、働く意欲さえ
も失われていく結果となった。問題は従来の日本的経営では世界の潮流から取り残され、
いままでのような経済や国民生活を維持することは困難であるから、新しい日本企業の経
営理念が必要になったということである。

 近未来への危惧
 2017年にS・ホーキング氏はAIを導入することで、人類に残された時間は100年と述べた
ことはよく知られている。西澤潤一氏も「人類は80年で滅亡する」と環境問題の現状分析
の結果から予知している。 10  多くの分野の研究者がそれぞれの立場で、人類の近未来に
危機感を表明している。 11  原発についても同様で、どこの国でも原発ごみの処理に困窮
しており、廃炉は当然でも廃棄する場所などどこにもない。
アメリカ型グローバル企業は株主の要求を盾に、自社の利益と結びついた事業には、ど
ん欲に投資を行う一方、石炭・石油をはじめとする化石燃料は未来の人類の財産として残
しておこうとはせず、未来の利益も先取りし環境やエネルギー問題、温暖化による地球環
境の変化にも気を留めず、右上がりの発展を信じ、開発一辺倒の経済活動を進めている。
さらに近年、地球の資源だけではなく宇宙の資源開発に着目し、地球資源が枯渇するとき
に備える開発が行われている。 12  
巨大なグローバル企業は、国家組織と並ぶほどの資産を有し、社会に対する影響力も大
きく、これを「株主のもの」というには、あまりにも狭視野的すぎる。環境問題を解決す
るためにはグローバル企業の協力が必要であり、現代の巨大株式会社組織には、そのコー
ポレートガバナンスに新しい視点が求められなければならない。社会に必要でやらなけれ
ばならないことは、企業の利益に結び付かなくても、成し遂げられる社会にしなければな
らない。エネルギー、環境や生態系について、そして人類が平等に幸福になるための方策
を実行することが必要である。
9 厚生労働省「労働経済の推移と特徴」2018年、26ページ。
10 西澤・上野『人類は80年で滅亡する』東洋経済2000年2月。
11 シーア・コルボーン他、長尾力訳、『奪われし未来』翔泳社、1997年。
12 日本の宇宙開発利用体制は内閣、文部、経産、国土、環境省と広域に跨り検討され、2016年11月宇宙活動法が成立、世界的な開発競争が行われている。

 環境問題対策の新潮流
 さらに民間企業においても大きな変化の時代を迎えている。仮想通貨やキャッシュレス
社会の出現で、今までよりも銀行の存在感が薄くなるとの認識が、銀行経営に大きなイン
パクトを与え、大手都市銀行で数万人単位の解雇が始まった。追い込まれた銀行は、API
(Application Programming Interface)戦略を採用し、異業種連携によるビジネスアイ
デア共創の場を提供し始めている。銀行のソフトウェアを一部公開して、他企業のソフト
ウェアと機能を共有できるようにして、異業種・他企業と新しいビジネスを創造していく
契機にしている。ここに環境保護を目指す組織が参入することで、今までになかった新し
いビジネスや、環境に関するイノベーションを生み出すことが期待される。
グローバル資本が私欲ではなく、本当の意味で地球の環境を復活と人々の幸せのために
機能させることが大切である。当然、問題課題は山ほどある。どのように現在のグローバ
ル資本を環境重視型の企業に代えていくのか、新たなイノベーションを必要としている。

結論
 日本において株式会社制度は人間主体の制度であったのに対し、アメリカ型のグローバ
ル会社制度は、他国に対して大きな犠牲を払わせるものだった。それは資本や労働だけで
なく、自然環境に対しても同じである。長い停滞とアメリカからの圧力で日本の株式会社
制度は大きく傷ついてしまった。
時代は大きく変わろうとしている。このチャンスに日本は現在の会社制度をアメリカ型
グローバル経営から、多くの人々が共感できる新しい制度に改革するべきである。必要な
のは破壊した日本的経営を再生するのではなく、新たな視点で創造するという壮大な目標
を掲げることである。エネルギー資源の少ない日本にとって、安全で環境破壊の少ない新
たなシステム造りは、絶対必要な要件である。そのためのイノベーションやスタートアッ
プ企業には集中的に支援し、日本発の新たなビジネスモデルを構築することが望まれる。
現代社会をすでに資本主義の末期あるいは、今までとは異なる資本主義体制への転換点
なのではないかと考える。資本主義が生き残れるか否か、環境問題の解決にかかっている
。それはグローバル化のもとに破壊された日本的経営の再構築ではなく、全く新しくこれ
からの時代に対応し、企業が指標としてめざすべき日本の経営理念を求めることである。
その概念は、エネルギー、環境そして社会貢献であり、利益の追求ではない。新たな社会
制度の中に環境問題を組み込み、現代企業が税金を払うのと同じように、エネルギーや環
境の問題について、果たすべき役割を義務化することである。日本が手本を示して、格差
をなくすことで貧困問題を克服し、日本の強みである技術力や豊かな文化をエネルギー、
環境そして社会貢献に向ける理念を構築すること。孤立を避けてだれもが共感できる理念
を打ち立てることで、同じ思いで後に続いてくる仲間を増やすことも必要である。現在の
新自由主義的な方向が行き詰まっていることから考えて、必ず新しい道を開かなければな
らないと願うばかりである。

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